〜テーマ:「話をきいてもらえた」と感じるとき(第2回)〜
前回は、「良かれと思ってなされた上司からのアドバイス」で、かえって心を閉ざしてしまった山城さんのケースをご紹介しました。
「以前、師長さんに相談したとき、良いアドバイスをもらったけれど、話をきいてもらえた気がしなかった。だから今回も相談したくないんです」ときっぱり言い切った山城さん。
彼女の体験を深く紐解く前に、今回は私自身の「ある苦い体験」をお話しさせてください。
それは、話をきく側がいかに簡単に、そして無意識にある「罠」に陥ってしまうかを示す、私自身の失敗談です。
私の話を全然きいてくれない!
それはある日のこと。当時小学4年生だった娘が、学校から帰ってくるなり、ランドセルを背負ったまま息を荒げて勢いよく話し始めました。
「かすみちゃんなんか、もう大嫌い!係を決めるときに、すごくズルかったんだよ!それでね、……」
怒りと悔しさでいっぱいの様子で、話はしばらく続きました。 私は「うんうん」「そうなんだ」と相槌を打ちながら、母親としても、そして人の話を「聴く」ことを生業にする身としても、それなりにしっかりと向き合っているつもりでした。
ところが突然、娘が激しい口調で私を拒絶したのです。 「ママは、私の話を全然きいてくれない!」
私は驚いて、思わず息を呑みました。 一人のカウンセラーとしての自負も、母親としての立ち位置も、その一言によって根底から揺さぶられ、胸に深く、グサリと突き刺さりました。
「どうして娘を怒らせてしまったのだろう?・・・」頭が急に冷えていくのを感じました。
娘が話した内容は、すべて正確に聞き取れていました。うなずき、能動的にきく姿勢も取っていたはずです。戸惑う私に、娘の口からさらに、本質を突く言葉が返ってきました。
「そんなことはわかってる!」
「そんなことはわかってる!そんなことをママから言ってもらいたいんじゃない!」
その一言をきいた瞬間、私はようやく「自分の過ち」に気づきました。 私は、娘の話を遮るようにして、何か「正論」や「具体的なアドバイス」を口にしてしまっていたようなのです。
「口にしてしまっていたようなのです」と、あえて他人事のように振り返るのには理由があります。そのときの私には、相手にアドバイスをしている自覚が、本当に、これっぽっちもなかったからです。
娘は、私のアドバイスの内容が間違っているから怒ったのではありません。むしろ、内容そのものの正しさには同意していたようです。
けれども、そのときの娘が求めていたのは「正しい解決策」ではありませんでした。ただ「自分の悔しかった気持ちを、そのまま丸ごと受け止めてほしかった」だけ。
それなのに、私の頭は無意識のうちに『どう解決するか』という思考に占拠され、娘にとって「話をきいてもらえた」という安心の場を奪ってしまっていたのです。
「相手のためを思って」伝えるアドバイスが、なぜ相手を拒絶させてしまうのか。 なぜ私たちは、目の前の人を大切に思えば思うほど、無意識のうちに「アドバイス・モード」になってしまうのか。
この、きき手が陥りがちな「心理の罠」について、次回はさらに一歩踏み込んで考察していきます。

