Ser.3-3「自分らしく」が「自分本位」にならないための一線

〜 テーマ3:『自分の言葉は自分だけのものではない』(最終回) 〜

前回は、「自分に直接言われたわけではない言葉」に心を痛めていた看護師の黄山さんのエピソードをご紹介しました。

「ナースステーションで、スタッフや患者様の悪口、病院に対する批判を、みんなに聞こえるように大きな声で言う人がいるんです。特に青間さんがすごくて……。周りにも賛同を求めてくるような話し方なんです。だから彼女と勤務が一緒になると、賛同を求められるのが怖くて気分が重くなります。それに、誰も注意をしないんですよ。他の人は何とも思っていないのかなって……誰にも言えず、もう我慢ならずにここに来ました」

黄山さんのお話を聞きながら、私はひとつの疑問を抱いていました。

「青間さんは、自分の言動が後輩を傷つけていることに気づいているだろうか?……もしその事実を知ったら、どう感じるだろうか?」

後日、ロッカー室で偶然青間さんと二人きりになる機会がありました。 普段から相談室の利用が多い当院では、職員同士が立ち話をするのはごく日常の光景です。

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「自分らしく」と「自分本位」

「お疲れ様です」と挨拶をしてくれた青間さんに、「今の病棟のどんなところが好き?」と軽いトーンで尋ねてみました。

彼女は「自分らしくいられるところですかね」と答えました。

その言葉に、胸が静かに波立ちました。

「自分らしくある」とは、自然体で過ごし、自分を大切にするという温かい概念です。しかし黄山さんの面接を通して見えてきたのは、周囲への配慮を欠いた「自分本位」な振る舞いでした。青間さんが「自分らしく」過ごす陰で、黄山さんがその負のエネルギーを受け止め、一人で耐えていたのです。

そしてもうひとつ切なかったのは、青間さん自身がその振る舞いによって、知らず知らずのうちに職場の信頼を失っていたことでした。言葉のトゲが、巡り巡って自分自身を傷つけている――。私は青間さんにも、本当の意味で自分を大切にしてほしいと感じました。

周りに誰もいないことを確認し、私は青間さんに声をかけました。

「実はね、私の苦い失敗談なんだけど……。『今日の面接は自分らしく言いたいことが言えた!』と満足した時ほど、クライアントにとっては良くない面接だったりしたのね。当時の指導教官から『それは自分本位な面接だ』と厳しく指導されたことがあって。」

青間さんは少し驚いた様子でこちらを見ていました。私は言葉を続けました。

「青間さんの『自分らしく』という言葉を聞いて、ふとその失敗を思い出してね。青間さんが現場で一生懸命頑張っているのはよく知っているからこそ、私と同じような思いをしてほしくないなと思ったの。もし『今日は言いたいことが言えたな』と感じた日があったら、そっと周りの反応を見てみてほしい。いつの間にか『自分本位』になって、せっかくの信頼を減らしてしまうのは勿体ないからね」

青間さんは黙って聞いていましたが、その目の奥に小さな納得の光が灯ったように見えました。

上司とともに、これからの作戦会議

後日、黄山さんの了承を得た上で、病棟の師長さんと今後の対応について共有しました。事情を把握した師長さんは深く頷き、今後は青間さんの頑張りを労いつつ、行き過ぎた言動があった際には「あなたの信頼に関わるから心配している」という姿勢で、個別に向き合っていくことを約束してくださいました。

「自分らしくいること」と、「自分本位に振る舞うこと」。 この二つの間には、「他者への想像力」というごく細く、けれど決定的な一線が引かれています。

自分の言葉は、自分だけの領域にとどまりません。だからこそ、自分の言葉を丁寧に扱うことは、自分と周囲の双方を真に大切にすることにつながっていくのだと感じます。

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