Ser. 5-3 指導する先輩たちの知られざる本音

〜テーマ:職場環境の変化を乗り切るために(3回目)〜

前回の記事(Ser. 5-2)では、「業務が覚えられない」と悩む1年目看護師の紺野さんのエピソードから、神経の疲労や限界状態から抜け出して自分らしさを取り戻すための「心の休ませ方」や「休息の取り方」についてお伝えしました。

今回は、そんな新人を支える「先輩看護師」たちの視点に焦点を当てていきます。

目次

「つい後輩を叱ってしまって……そんな自分が嫌になります」

こう話すのは、新人の紺野さんのプリセプター(指導係)である黒木さんです。 私が紺野さんと面接をしたちょうど同じ頃、「紺野さんの指導にほとほと困ってしまった」と、同僚の白石さんと二人で相談室にやってきました。

黒木さんに続いて、白石さんもこう言います。

「当人は、教えてもらって当たり前だと思っているように感じるんです。感謝してほしいわけではないけれど、少しくらいそういう態度をとってくれたら、こちらも『よし、応援しよう』って気持ちになるじゃないですか」

白石さんの感情のこもった言葉に後押しされるように、黒木さんも言葉を重ねます。

「そうそう!それに、ミスをしたときに『申し訳ない』という気持ちがあるのかどうかも伝わってこないんですよね。だから私たちもますますイライラして、つい言い方がきつくなってしまうんだと思います」

「本当にわかっているのかしら、感謝する気持ちがあるのかしら、悪いと思っているのかしらって……。彼女のはっきりしない反応を見ていると、いろいろ疑問が湧いてきて疲れてしまうんです。疲れるから、正直に関わりたくない。でも、担当する患者様にご迷惑がかかってはいけないと思うと、言わないわけにもいかないじゃないですか」

最初こそ勢いよく胸の内を明かしていた二人でしたが、次第にしんみりとした雰囲気になり、やがてプリセプターの黒木さんがぽつりと呟きました。

「でもね、こうも思うことがあるんです。自分たちの教え方が悪いのかなって。あの子が悪いと決めつけていいのかなって……」

「なかなか仕事が覚えられない」と後輩が悩む一方で、指導する先輩たちもまた、その関わり方や関係性に悩み、互いの間にギクシャクとした心理的距離が生まれてしまう――。 これは、決して珍しいことではありません。

相互理解の不足という「悪循環」

その後、病棟の主任と私(カウンセラー)が立ち会う形で、紺野さんと先輩たちが話し合う機会を設けました。第三者がいることで、両者とも冷静にそれぞれに感じている状況を語ることができたようです。そこでお互いの本音を知ったとき、双方ともとても驚いた様子でした。

それまでは相手に対する先入観や「きっとこう思っているに違いない」という根拠のない推測で、相手を決めつけていたのです。 それによって心理的にぎこちなくなった二者は、いつしか直接関わる機会を避けるようになっていました。その結果、後輩はますます仕事を覚えるのが難しくなり、それを見た先輩たちはさらにイライラを募らせていく――まさに絵に描いたような「悪循環」に陥っていたようでした。

先輩たちから出た「わかっているのかわからない」「申し訳ないという気持ちが伝わってこない」という言葉。 実は、自分の状態や気持ちを周囲にはっきり示せないというのは、多くの新人に共通してみられる現象です。当の本人たちには、決して悪気があるわけではありません。過度の遠慮や緊張によって「表現できなくなっている」だけというケースも多いのです。しかしそれが周囲には「生意気」「感じが悪い」「素直じゃない」と受け止められてしまうことに、本人自身も気づいていません。

1年目の時期は誰しも緊張し、どこか「猫をかぶっている」ような状態ですし、周囲がその人の本来の性格や人柄を理解するには時間がかかります。 こうした初期段階における「相互理解の不足」こそが、問題をより複雑にしてしまう要因なのです。

次回はシリーズ最終回です。 新人と先輩、それぞれの葛藤を踏まえ、この状況を乗り越えるためにどのような工夫ができるのかを考えていきます。

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